原作の存在するドラマ・映画制作で留意すべきことについて ~芦原妃名子先生を悼んで~4

セクシー田中さん(4) (フラワーコミックスα)

テレビドラマ「セクシー田中さん」の脚本を当初担当したのは相沢友子さんです。しかしながら紆余曲折があって、9話・10話(最終回)は原作者である芦原先生が担当することになりました。ところが芦原先生には脚本家の経験はありません。忙しい漫画制作の合間を縫って脚本を書いたものの、どうしても満足のいくものには仕上がらなかったようです。ドラマにはスケジュールがあるので不本意ながらもその脚本を決定稿とせざるを得なかったのは、芦原先生にとってかなり重いストレスになっていたのではないでしょうか。
芦原先生は「セクシー田中さん」のドラマ化に際して、原作が完結しておらず、今も連載中ということで、ドラマオリジナルとならざるを得ない終盤も、原作者があらすじからセリフまで用意し、原則変更しないようにという約束の下に、ドラマ化を許可したと認識されていたようですが、納得できるプロットや台詞が日本テレビ側から提案されなかったことから、原作者が脚本を執筆する可能性が顕在化してしまったのです。満足のいく脚本を仕上げることが出来ず、テレビドラマ「セクシー田中さん」を連載している漫画に上手く連携させることが出来なかったという思いから、漫画の「セクシー田中さん」を休載するという悲しい結論に至ることとなってしまい、そのこともストレスとして芦原先生の心を虫食んでしまったのかもしれません。
芦原先生の書き込みを見ると、ドラマ「セクシー田中さん」制作にあたって脚本家とあったことは一度もないということですが、原作のあるドラマの脚本を書くということは悪い言葉でいえば下請けです。おそらくテレビ局の制作委員会には良くて初回のみ参加する程度で、基本的にテレビ局側から派遣される担当者(平のプロデューサーかディレクター)の指示を受けてテレビ局の意向に従った脚本を仕上げるのでしょう。
「漫画に忠実にし、忠実でない場合は加筆修正をする」
「ドラマオリジナルの終盤も、原作者があらすじからセリフまで用意し、原則変更しない」
という芦原先生の希望は脚本作成に際して脚本家の相沢さんに届いていたかどうかは疑問です。そうでなければ初回からすべての回で大幅に加筆修正の必要な脚本が芦原先生の下に届くわけがありません。
かといって脚本家の相沢友子さんのわがままで原作が改変される形になったわけではありません。脚本家は宮藤官九郎倉本聰橋田壽賀子といったドラマタイトルの前に脚本家の名前が出るような方以外は、制作委員会に毎回顔を出すなどということはなく、特にオリジナル脚本がなく、原作物の脚本を中心に活動してきた脚本家は職人さんのように、テレビ局の要望に応じて原作を脚本に起こす作業に秀でている者が重宝されるので職人化が進んでいるのではないでしょうか。したがって、テレビ局の意向に沿ったテーマ性やプロットで脚本が書かれることが多くなり、原作の改変に繋がってしまうのではないでしょうか。
次回はテレビ局側の事情についても考察してみたいと思います。