原作の存在するドラマ・映画制作で留意すべきことについて ~芦原妃名子先生を悼んで~3

セクシー田中さん(3) (フラワーコミックスα)

漫画家が漫画を執筆するにあたっては、出版社との間に契約が結ばれるのが当然であると思われる方がほとんどだと思いますが、その常識が通じないのが漫画家と出版社との間の関係の特殊性なのです。

hosimi.hatenablog.com

(20年前のBLOG記事になりますので、記事内のリンク先がすでに消滅してしまっています。ご了承ください)
私のBLOGで20年前に集中的に書き込みを行った問題なのですが、この書き込みの一連の記事の中で問題として挙げられた中に、漫画家と出版社との間に執筆に関する契約書が存在せず、口約束による場合が多いというものがありました。この問題に関しては記事を書くという関わりから始まって、事件の渦中にある漫画家さん達ともメールのやり取りを行うようになったのですが、この事件後も契約に関する状況は変わっていないということなので、その状態が現在も続いているのではという心配があります。
なぜならば、日本テレビが芦原先生逝去後すぐに発した公式コメントで、
芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております」
という文言があったからです。このコメントに対応するような小学館のコメントが発せられなかったからです。自社のコミック誌に作品を連載しコミックス化もしているマンガの原作者が、どうやら自分の漫画のドラマ化に際して悩んだ挙句に逝去されてしまったことについて、ドラマを制作した日本テレビ側が追悼コメントの中に、原因を回避するような言い訳のコメントを挟んできたのですから、本来ならば漫画家の権利を守るべき小学館が少なくとも何らかの反応を示さねばならないと思うのですが、1週間が経過した今もその気配がありません。契約書を示して、そこに約束された条件が守られていなかったことを指摘すればよいだけなのに、それがされていないということは契約が書面として存在していない可能性を考えざるを得ないのです。私が最も危惧しているのは、日本テレビ小学館との間の契約はちゃんと存在するものの、小学館と芦原先生との間には口約束という形でしか存在していなかった場合です。
「セクシー田中さん」のドラマ化についての契約が日本テレビ小学館との間で結ばれるに留められ、原作者である芦原先生には制作委員会に所属していない編集部の芦原先生担当者によって「先生の希望された条件通りにドラマを制作すると日本テレビが言ってくれました」と口頭で連絡していたのかもしれません。出版社の芦原先生担当者は「セクシー田中さん」を先生と二人三脚で作ってきたのだと思いますので、どちらかと言えば芦原先生サイドの考え方に近いものと思いますが、担当者はドラマ制作委員会には参加していないので、契約内容についての情報が正確に伝わっていない可能性があるのです。漫画家の先生たちにとっては口約束と契約が同等の価値を持っていたのかもしれないという闇について書いてみました。
次回は脚本家側について書いてみようと思います。